色々模索中。

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♯ 冨美子の昼休み

休み時間に本を読んでいたら、突然、髪の毛を引っ張られた。

 「冨美子って名前、ダセーよな。親に愛されてないんじゃね?」

クラスのガキ大将が笑っている。
取り巻きの男子も、オシャレにしか興味の無い女子グループも、笑っている。


家に帰れば、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがお帰り、と声をかけてくれて。
お菓子を食べながら、今日あった出来事を話し合う。
お祖父ちゃんに勉強を見てもらって、お祖母ちゃんが夕飯を作るのを手伝って。
仕事から帰ってきたお母さんと一緒にご飯を食べて。
お父さんの帰りを待ちながら、みんなでまた今日の出来事を話し合う。
お父さんが帰ってきたら、ご飯の準備を手伝って、またお話。
何度その話をするの。よっぽど嬉しかったのねって、お祖母ちゃんが笑ってて。
お母さんも、良かったね、って笑ってる。
お風呂に入った後、音読の宿題はお父さんに聞いてもらって。
寝る前お母さんに物語を読んでもらう。

学校行事は、仕事を休んでても来てくれるし。
休みの日には、釣りに行ったり、キャンプに行ったり。
たまに、温泉に行ったりもする。

家族みんな、私と一緒に怒って、悲しんで、喜んで、笑ってくれる。
私のくだらない話を、本気で聞いてくれる。

これって、愛されていないの?
もし愛されてなかったとしても、私は家族を愛してるよ。
愛してる家族がくれた名前だから、私はこの名前が大好きだよ。


一気に話したせいか、少し息が切れた。
ガキ大将は、少しうろたえているように見えた。

「自慢かよ。ウゼー。てか、名前って、親からの最初のプレゼントだろ」


君が自慢って思うくらい、私は愛されてるってことだね。
それから、親からの最初のプレゼントって、体じゃない?
名前は2番目、もしくは3番目くらいのプレゼントじゃないかな?
命があっても、体が無きゃ生まれてこれないでしょう。
妊娠中って、気持ち悪かったり、足がむくんだり、薬も飲めないし、大変なんだって。
でも、丈夫な子どもを生むためだから我慢できるって、お母さんが言ってた。


「いやいや、生まれてからの話だし」


そう。じゃあ、名前が最初のプレゼントなんじゃない?
ねえ、本の続き読みたいの、この話はもう終わりにしていい?


「逃げるのかよ。てか、ここまで必死になるって、やっぱり愛されてないんじゃねー?」
「今時、冨美子は無いよね」
「何時代だよ?」
「あれだ、ブーダロウの妹がトミコじゃないっけ」
「ちびまるこちゃん?じゃあ昭和だ」


何なの、名前をいじりたいだけなの?
名前って、単なる記号でしょう。
大勢いる人を簡単に識別するための手段。
苗字だって、血統を表す記号。
オンリーワンの名前、って言うけど。
人間って、クローンとか一卵性双生児でもない限り、遺伝子レベルで違う個体でしょう。
元々がオンリーワンでしょう。
双子だって、外見や考え方が違ったりするでしょう。
それはそれぞれの個性で、それもやっぱり、オンリーワンになるでしょう。
元々オンリーワンなのに、どうして名前でそれを強調する必要があるの?
大事なのは、名前じゃなくて、どう育てるか、でしょう。
正直、名前なんてどうでもいいの。
私を愛してくれてる家族が考えてくれた名前だから、大好きなだけ。

その後は、何も聞かず、本に集中した。
多分、今日、私は家で今の話はしない。
かわりに、今読んでいる本の話をしよう。
お祖母ちゃんもお母さんも、読書家ね、って褒めてくれる。
みんな、何も知らなくていい。
私は平気だから、何も気にしなくていいの。
心配させる必要も無い。
私は十分、愛されてるから。
| - | 03:01 | comments(0) | - | | |

♯ かぞくのうた。0

 「お父さん、結婚することにしたんだ」

学校から帰ると、珍しく、父が家にいた。
リビングのソファに浅く腰掛け、電源の着いていないテレビを見つめていた。
私が、どうしたの、と声をかける前に、父は衝撃発言をした。
結婚する、と。

「相手は、誰。お母さん、ではないんでしょう」
「仕事で知り合った人だよ。高1の双子の息子がいるそうだ」

新しいお母さんと、お兄ちゃんができるのね。
そう言って喜ぶフリができたら、良かったのに。
私は、ただ、悲しくなった。
本当の母と一緒に暮らせる日は、一生来ないのだと思い知らされた。

「そう。おめでとう」

父が選んだ人だから、良い人なのだろう。
私が言うことができたのは、簡潔な祝福の言葉だけだった。

「申し訳ないが、高校は外部に行ってもらうことになる」

母とのつながりが、完全に無くなってしまう。
遠く、か細く、つながりとは言えないつながりだけれど。
それでも、私にとってはつながりだったのに。
私は子どもだから、父に従うしかない。
それもまた、悲しかった。

「分かりました。近いし、公立だし、菊浜にするよ」
「別に、公立じゃなくたっていいのに」
「ずっと私立だったから、公立に行ってみたいの」

父を一方的に責めたい気持ちはあった。
けれど、少し考え、母の命令かもしれない、とも思えてきた。
それだったら、仕方ない。
私も父も、母には逆らえない。
真実ではなくても、自分の納得のいく事を、真実と思い込めばいい。
どうせ、父は真実を教えてくれないのだから。

「受験、頑張れよ」
「お父さんの娘だもの。楽勝よ」

まだ悲しい気持ちは残っていた。
けれど、都合の良いことだけを信じて、前へ進もうと思った。

期末テストが終わったばかりで、夏休みが始まる、少し前のことだった。
| - | 04:29 | comments(0) | - | | |

♯ 創作メモ

親友なんて言葉も知らなかったあの頃、死んでいったあの子。
あの子はきっと、私の、初めての親友。
今はもう、あの子の笑顔ですらぼんやりとしか思い出せないけれど。
それでもあの子は、私を親友だと思ってくれているのでしょうか。
生まれ変わったらまた一緒に遊ぼう、なんて思ってくれているでしょうか。
真実を知っても、許してくれるでしょうか。
……もう、真実を知っているでしょうか。

嗚咽と共に、声にならないゴメンナサイが溢れてくる。

私がずっと隠していた真実と、恋心と、あの日見た景色。
新たに出来た秘密と一緒に、真っ赤な海に溶けて、消えてしまえばいい。


すべてを消すために、私は今、飛びます。
最期に伝えたい言葉はひとつ。
ずっと言えなかった、言葉。

ごめんなさい。
| - | 14:42 | comments(0) | - | | |

♯ ラブレター

晴れた日には、新しいものを見つけに出かけましょう。

雨の日には、思い出話をしながらお茶でも飲みましょう。

過去も未来も、ずっとずっと、一緒にいてください。
| - | 20:14 | comments(0) | - | | |

♯ 雨の日に、カフェで。

「結婚してください。君は、俺が一生支えます」

怖くなって、君から逃げていた。
だけど、逃げるうちに、君が遠くなっていくことに気付いた。
そうしたら、君が居なくなるほうが怖くなった。
だから、プロポーズした。
彼女はプロポーズを待っていた。
大丈夫だと、思っていた。

「ごめんなさい。結婚とか、もう、無理」

ぽろぽろと、彼女は涙をこぼした。
遅かった。
逃げてしまった時、すでに終わっていたんだ。

雨の降る日に、カフェで。
プロポーズは二度としない。
いや、プロポーズは、二度としない。
雨の音と、彼女が鼻をすする音を聞きながら。
一人、心の中で誓った。
| - | 23:19 | comments(0) | - | | |
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